日本でも1970年代初頭までは猟銃の購入に複雑な手続きはなく、当時国内の射撃・狩猟人口は史上最大でした。
一方で、当時の銃は今日よりも高価な品物で、例えば1973年の銃砲年鑑を見ると銃の価格帯は以下の通りです。
・ミロク 上下2連 10万円から30万円
・ベレッタ 自動銃(A300) 15万円から18万円
・レミントンM1100 12万円から16万円
当時はオイルショックで物価が乱高下しており、その当時の金銭感覚をつかむのは難しいのですが、現在の3倍から4倍の価値ということになりますかね。
現行の自動銃の売れ線、ベレッタAL 391の最高級であるストーンコートは実売価格30万円程度ですから、当時のことを考えると、銃を買うことは現在の2倍以上の出費だったと思ってください。
さて、ここからが面白い話なのですが、1970年代の日本では「猟銃は高価なもの」という固定観念がまかり通っており、結果的に、原産国…特に米国では単なる道具、庶民の銃と思われていたような自動銃やポンプアクションの銃でも、高価で希少な銃床材を採用した仕上げの良い銃が大量に輸入されました。アメリカでは富裕層は上下や水平の2連銃を好み、自動銃にお金をかけるような人はほとんどいません。しかし日本では、輸入代理店のイメージ戦略の甲斐があって、アメリカではめったに見られないような美しい木部の自動銃が、たくさん輸入されたのです。

例えば、写真のレミントンM870 SCは、特に木目の良いウォルナットを使用していて、実猟用にはもったいない、競技銃のような出来です(実際、SCはスキートカスタムの略ですが、スキート競技の現行ルールではダブル撃ちが多く、ポンプアクションは不利なので、この銃は狩猟用という扱いになります)。ちなみにSCは米国の中古市場ではめったに出回りません。金属部のブルー仕上げも色が深く、上質。心なしか、機関部のすり合わせも出来が良いように感じます。
こういう実用目的の機関部+競技用の外観という銃は、現在ではちょっと手に入りません。しいて言えばベレッタのストーンコートは近い仕様ですかね。
実用型の機関部に、やたら手の込んだ外装というのは、車で例えるなら、フィットやジムニーで本革シート、塗装はセルシオのような多層仕上げ、というようなもので、ある意味珍妙な仕上がりであるとも言えます。
とはいえ、こんな面白い銃が日本で手に入るのは楽しいこと。狩猟銃といえども、見た目が良いと撃っても気分が良いものです。お気に入りの1丁を探してみてください。