先日は「猟散弾銃は何が変わったか」というテーマで一筆書きましたが、今度は上下2連についてです。
クレー射撃はもちろん、狩猟用でも愛用者が多い上下2連散弾銃ですが、現在の機構は1922年に米国の銃器設計者、ジョン・モーゼス・ブローニングによって「ほぼ」完成されました。この設計は、彼の死後の1931年に ブローニング スーパーポースドとして製品化され、B25シリーズとして現在まで引き継がれています。
John Moses Browning, 1855 - 1926
余談ではありますが、ブローニングは現代銃器のほぼ全てを設計した天才といっても過言ではありません。ポンプアクション、ガスオペレーション、ショートリコイル、レバーアクション、ローラーロッキング…銃器の機構のほぼ全てを開発あるいは改良し、銃器の歴史において彼に勝る足跡といえば、火薬そのものの発明くらいしか思いつきません。ブローニングはそれほど凄い設計者なのです。
ブローニングがスーパーポーズドを開発するまで、上下/水平の2連散弾銃は職人がオーダーに沿って一丁ずつ製作するカスタムビルドばかりでした。しかし、スーパーポーズドはすでに実用化されていたスライドアクションやレバーアクションのように、近代的な工業生産ラインにのせることを前提として設計されました。
スーパーポーズドの仕様は以下の通りです。
・上下2連
・ボックスロック機構
・空薬きょうのエジェクター付き
・無鶏頭
ボックスロックは現在の散弾銃で最も一般的な機構で、これよりも旧式のサイドロックすらも現役です。空薬きょうのエジェクターは、射撃を終えてブレイクオープンすると、撃ち終えた薬きょうがポン! と飛び出す機構です。射撃せずにブレイクした場合は、薬きょうは飛びださずに薬室から少しだけ持ち上がり、脱包も簡単ですし、そのまま再びクローズすることもできます。これが無いと脱包の手間が余計にかかります。
無鶏頭というのは、リボルバー拳銃のような撃鉄が露出しておらず、開閉操作に連動して自動的に撃鉄がコッキングされる仕組みです。これに対して「有鶏頭」タイプの2連銃は、開閉操作に加えて手動コッキング操作が必要でした。
さて、ブローニングはスーパーポーズドの完成を見ぬまま、一つの課題を残して1926年に71歳で帰らぬ人となりました。
残された課題とは、伝統的な「両引き」トリガー(2本の銃身それぞれに対して、引き金も2本ある構造)の改良です。ブローニングは、引き金周辺のスペースが狭く、扱いにくい両引きを廃止し、1本の引き金と、どちらの銃身を発射するかを選択するセレクターを組み合わせたブローニング SST(Single Selective Trigger)、現在の「単引き」機構の開発を最後まで続けていました。残念ながら実用的な単引きの設計は容易ではなく、1931年にスーパーポーズドが最初に製品化された際は、旧来の両引きのままでした。SSTの研究は息子のバル・ブローニングによって継続され、1939年のモデルからスーパーポーズドにSSTが実装されました。
SSTは2本の銃身に対して、1本の引き金と、安全装置兼セレクターが組み合わされています。セレクターを右に寄せれば下の銃身が激発され、左に寄せれば上の銃身が激発されます。もちろん、1発射撃すれば、反対側の激発が準備され、引き金を引きなおすだけで2発目が発射されます。また、セレクターを手前に寄せれば安全装置が働き、引き金を引いても激発されなくなります。
何のことはない、これは現行の上下2連の使い方の説明そのものです。
結論を言えば、1939年のブローニング スーパーポーズド SST以来、上下2連には根本的な構造の変更は行われていないのです。
もちろん、クレー射撃のルール変更に伴い、特に、クレーが速く、装弾が軽くなるにつれて、銃は軽く取り回しの良いバランスが好まれるようになりました。また、猟用散弾銃同様の交換チョークの採用など、さらに現代的な装備も導入されています。
現在、初代のスーパーポーズド(Pre War Model)は、目玉が飛び出すぐらいの値段が付けられています。銃が持つ歴史的な価値を考えれば当然のことですし、現在でも十分通用するブローニングの設計の優秀さを良くあらわしていると言えます。
現行の銃に関して言えば、ブローニングの定番であるB25がもっとも正統な子孫であると言えます。そして、スーパーポーズドの名前も、ブローニング カスタムショップのオーダーメイド銃として現在でも受け継がれています。
旧来の職人仕事、手作りの上下2連に対するアンチテーゼとして大量生産のために設計された銃の名が、現在では再び手作り銃の名になるというのは、何とも皮肉なことです。しかし、この数奇な運命こそが「あたりまえ」に挑み続け、数々の新発明をスタンダードに変えた天才 ジョン・ブローニングの生きざまを象徴しているとも言えます。
これを読んでブローニングの銃が欲しくなった方は こちら
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